情報提供:m3医療維新 河上和雄氏インタビュー


ソネットエムスリー「m3.com」の医療維新インタビュー(2008年4月8日)に弁護士(医療と法律研究協会副協会長)・河上和雄氏のインタビュー掲載されています。このサイトは会員登録制のサイトで登録しないと読めないのですが、是非ご一読いただきたいと思います。

医療事故調についての厚労省三次試案に対する河上和雄さんの考えが述べられており、かなり興味深いです。

 

◆医療維新 インタビュー
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080408_2.html

2008年04月08日
弁護士(医療と法律研究協会副協会長)・河上和雄氏に聞く

 

 

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警察はあくまで医療事故を独自に調査
"事故調"第三次試案に異議、厚労省の権限強化にすぎず

橋本佳子(m3.com編集長)


 先週、厚生労働省は医療事故の原因究明などを行う第三者機関の創設に向けた「第三次試案」をまとめた。医療関係者が注目している第三者機関と刑事手続について、同試案では「新たな仕組みでは、警察・検察が専門的な調査を尊重する仕組みになる」と強調する。だが、東京地検特捜部長・最高検公判部長を歴任し、現在は弁護士の河上和雄氏は、「これは法律を無視したものであり、到底受け入れられない」と問題視する。(2008年4月7日にインタビュー)

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東京大学法学部卒業、ハーバード大ロースクールグラデュエイトコース卒業。1958年に検事任官。東京地検検事としてロッキード事件捜査などを担当、法務省公安・会計課長を経て83年東京地検特捜部長、最高検公判部長を歴任。弁護士、北海学園大学・駿河台大学教授。
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   ――最も医師が懸念しているのは、医療安全調査委員会と刑事手続の関係ですが、この点について問題があると。

 厚生労働省の医療安全調査委員会(以下、調査委員会)の議論自体には、法務省も警察庁も関与はしていますが、十分に詰め切れていません。第三次試案では、調査委員会がまず医療事故の調査を一括して行い、故意などの事例は警察に通知し、そこから捜査が始まるという仕組みを想定していますが、果たして警察や検察は了解しているのでしょうか。

 こうした仕組みを作るためには、刑事訴訟法の改正が必要ですが、第三次試案では触れることができなかったのでしょう。刑事訴訟法上では、警察や検察が捜査権を持つと定めています。第三次試案では、調査委員会の通知がないと捜査ができないような書き方をしていますが、これは法律を無視するものであり、到底受け入れられないでしょう。


 ――第三次試案では、「別紙3」という形で刑事手続との関係を補足説明しています。「捜査機関は謙抑的に対応する」「刑事手続については、委員会の専門的な判断を尊重しつつ対応」などと書かれています。

 謙抑的に対応するのは当たり前の話です。また、警察・検察が捜査を進めるにしても、調査委員会の意見を尊重することは考えられます。ただそれは、どれほど信頼できる組織を作るかにかかっています。これまでは医師同士のかばい合いなども見られたわけです。本当に信頼できる権威のある組織を早急に作ることができれば、いずれは厚労省が考えたように、警察・検察がその調査結果を尊重する時期が来るかもしれません。さもなければ、全然相手にしないことになります。

 

(全文はサイトに登録しないと読めないため、以下は要旨を掲載します)

・調査委員会の調査結果が信頼できるかどうかは、実績の積み重ねで判断される。それまでの間に、結局、捜査機関は独自に動く。
・第三次試案では、遺族が告訴した場合にも、「警察は、調査委員会の専門的な判断を尊重し、調査結果や委員会からの通知の有無を十分に踏まえて対応することが考えられる」としているが、「考えられる」だけであって、「考えられない」場合もある。

・第三次試案では、医師の故意や過失による医療事故が起きた場合に、厚労省は死因の調査を行うが、故意などを犯した医師について、その責任を追及する姿勢がない。厚労省が出した結果を見て必要な分だけ刑事の捜査にまわすという書き方をしているが、刑事訴訟法を改正しない限り、あり得ない。


・厚労省には、責任追及、つまり刑事罰や民事罰を課す権限がないので「調査委員会は、責任追及を目的としたものではない」というのは当たり前。
・行政処分にしても、「行政処分は、刑事処分が確定した後に、刑事処分の量刑を参考に実施されているが」とあるが(別紙3)、 厚労省は行政処分の独自の権限があるにもかかわらず、今まで実施してこなかったこと自体をまず問題視すべき。調査委員会を作ったからといって、厚労省が新たにできるようになるか。


・厚労省が医学的な観点から調査などを行い、医療事故を客観的に評価して、医療の透明性を確保することと、刑事責任や民事責任を追及するのは別の話で、後者は厚労省の仕事ではない。
 

・厚労省が医師の立場に立ち、刑事罰や民事罰から医師をできるだけ遠ざける、調査委員会が一手に引き受けるという形で厚労省の権限を強化する方向性を出したのが第三次試案だと思う。それも法律を無視して、厚労省の力が及ばない警察・検察に対して、調査委員会の言うことを聞かなければならいないとしている。
・第三次試案の「おわりに」の部分に、「本制度の確実かつ円滑な実施には、医療関係者の主体的かつ積極的な関与が不可欠となる」とある。この試案は、関係省庁の権限を奪う内容なので、「厚生労働省の広い視野からの検討と、関係省庁との十分な連絡が必要」と書くべきだが、こうした観点が欠如してる。。  


・遺族のことにほとんど言及していないのも問題。医学的に調査するならば、医師の一方的な言い分だけはなく、遺族からも話を聞くべき。

・医療事故の届け出範囲を明確化するとあるが、果たして明確化できるのか。
・身体障害を伴う事故についてはどうか。(異状死の届け出を定めた)医師法第21条を中心に考えているため死亡事故だけを取り上げている。


・医師法第21条の届け出先は、警察の刑事課にしているので、初めから「犯罪か」という見方をせざるを得ない現在の仕組みは問題だと思う。


・警察も専門的な調査を行う組織を必要としている。しっかりとした調査機関を作るべき。その調査機関の目的は二つ。一つは、医学的な発展のために医療事故の原因究明などを行うこと(医師が中心)。もう一つの目的は、医療事故が故意や過失なのかどうか、刑事責任を追及すべきかという観点から調査を行い、警察に対して材料を提供すること(厚労省単独でできるものはなく、関係省庁が協力して取り組むべき)