最近、発表された論説、および医事新報の記事をご紹介します。
木下勝之日本医師会理事、樋口憲雄教授(法学者)、河上和雄 元検事、井上清成弁護士 (病院側弁護士)の意見の対比が興味深いです。
以下、本文から文章を書き出して、内容を私なりに整理いたしました。もし可能でしたら、下記の原典の内容もご確認いただければと思います。
●日本医事新報 No.4378 (2008年3月22日) p6
NEWS 死因究明制度 厚労省が近く『第三次試案』提示へ ~検討会での合意事項中心に整理
ニュース記事ですが、検討会での樋口委員・木下委員のコメントが紹介されています。
●The Mainichi Medical Journal (MMJ) March 2008 Vol.4 No.3 p.252
弁護士が語る医療の法律処方箋 第12回 医療事故調査制度
法案提出前に法的リスクの告知を
井上清成弁護士(医療法務弁護士グループ代表)による論説です。
●医療と法律研究協会( http://www.m-l.or.jp/index.htm )
医療安全調査委員会に対する見解( http://www.m-l.or.jp/research/kawakami.htm )
河上 和雄氏(医療と法律研究協会 副協会長、元東京地検特捜部長、弁護士) による論説です。
以下、私のまとめです。
(1) 謙抑的な対応
法務省も警察庁も謙抑的に対応するといっており(樋口教授)
法に書けなければ運用も含め、厚労省の公式文書として出す(木下理事)
この委員会において、医療事故の過失まで最終的に認定するというのは、如何なものか。過失概念は法的概念であって、医学的概念ではない。医師を中心とする委員会の委員で真の意味の過失概念を法的に理解している人物を多数そろえることはまず不可能であろう。 (河上和雄氏)
医療安全調査委員会の結論が刑事法上の責任追及の責務を負っている警察、 検察に対して拘束力を持たない以上その結論を尊重するといっても、具体的事件においては無視される可能性が高い。 (河上和雄氏)
(2) 責任追及は目的ではなく
厚労省第二次試案にはなかったが、いずれは試案に「責任追及を目的とするものではない」と明示されるでろう。しかし、明示したからといって、医療者の責任追及が制度の目的ない し意図でなくなるだけである。責任追及の制度として機能するであろうし、 制度が責任追及の結果をもたらすであろう。(井上清成弁護士)
(3) 届け出義務化
医師法19条の応召義務には罰則がないにもかかわらず、何故に、届け出義務には罰則をつけることにこだわらねばならないのであろうか。(中略)。行政処分を迅速に発動するために、医療事故情報収集が必要だからであろう。(井 上清成弁護士)
診療関連死の届け出義務化により、行政処分の拡大が可能になる(井上清成弁護士)
厚労省は、医療機関に業務改善命令を行う処分類型を医療法に創設する方針(医事新報)
(筆者注:これは、医療法で既に都道府県に権限があります。今回の制度は厚労 省と都道府県の二重処分になります)
(樋口委員らが)捜査機関の通知の範囲に限らず、医療従事者の注意義務違反の程度や医療機 関の管理体制等を踏まえ幅広く処分を行う考え方を支持。医師の委員からも異論は出なかった。(医事新報)
(4) 民事
「重大な過失」について(中略)「医療水準からの逸脱の度合いで判断するという ことでいいのか」と確認を求めた。佐原康之医療安全推進室長は「そうしていくべき」と述べ(後略)(医事新報)
根幹にあたる法的医療水準を修正しない限りは、限界がある(井上清成弁護士)
(5) 医療者への説明
不利益な面を医療者が理解しないままに賛成してしまったとしたら、それは医療者のインフォームドコンセントが得られたことにはならない(井上清成弁護士)
(6) 厚労省への信頼感
厚労省の過去の政策の失敗や医師間の助け合いによって事実がゆがめられて きたあまたの事例に対する苦い思い出が捜査当局に潜在的に存在することも忘れるべきでない。とりわけ厚労省がこれまでの医師会に極めて弱いこと、多くの新薬訴訟に見られる政策が杜撰なことなどに対する国民や捜査機関の疑念が払拭されたという証明はない。委員会の結論が無視されて刑事訴追が行われ有罪判決が確定するような事例が頻発すれば委員会自体権威を失い存在価値がな くなる危険性がある。(河上和雄氏)