考察
今回の調査は、どのような疾患であっても在宅医療の対象になり得ることを示した。しかしながら、今後より在宅医療の展開が促進されるためには、議論すべき何点かの問題がある。
研究の特徴的な結果として、在宅医療に至ったがん患者の多くが、がん拠点病院を経由、またはがん拠点病院から直接在宅医療へ紹介されて(移行して)いることがある。これは、がん拠点病院医おいて、近年地域連携など方策や運用の整備がすすみ、その他の医療機関にくらべ、非常に在宅への移行がし易い環境が整っているのかもしれない。その一方で、高齢や認知症などの合併等を理由に手術や化学療法の適応外とされ、在宅に移行されている事例も多い。高齢者の治療を受ける機会の喪失がないかについての追加調査が必要である。
また、がんは遠くまで診断や治療に出かけていると予想していたが、その距離はこれまでの研究よりもさらに短い5.5kmであったことは非常に興味深い。今回の対象地域には地方の中心都市が多く含まれていたため、比較的がん拠点病院に近い、アクセスしやすい患者が多く対象に含まれていたと考えられる一方で、集約化がすすみがん医療が受けられる医療機関に偏りが生じている結果を示すものかもしれない。在宅医療も含め、がん医療の均てん化(バランス)をどのように保つかはさらなる国民的議論が必要である。
また、年齢によりその距離に差があることは、加齢による行動範囲の縮小や受療行動の変化、健康観の変容などが影響しているのかもしれない。この点についても追加の調査が必要である。
患者の居住地と在宅支援診療所の距離には地域により、差が見られた。B地域、C地域、D地域(福岡市内、東京23区内)と言った地域ではもっとも遠くても3.8〜13kmであるが、E地域、G地域(盛岡や鴨川と言った地域)では30km以上の距離を往診しているケースもあった。地域の事情にそれぞれの診療所が対応、カスタマイズした結果と考えられる。後者の様な広範囲かつ人口密度の少ないエリアをカバーするためにはいくつかの工夫が必要である。まずE地域、G地域の診療所は他の診療所に比べ、常勤医師数が多いことがあげられる。複数の医師で多くの患者宅の訪問することや、訪問看護ステーションと電子カルテを通じて綿密な情報交換、スタッフ間の信頼関係、レベルの把握などを行い、適切な医療が行き届く体制が整えられていることがあげられる。E地域、G地域で対象となった医療機関は、広範囲、低い人口密度という診療所経営にとっては悪条件であっても、国内においても先駆的取り組みを積極的に実施している医療機関でもあり、このような施設は今後過疎地域における在宅医療、在宅がん緩和医療推進のモデルになると考える。
本研究は限られた施設を対象とした研究であり、予期せぬバイアスが存在している可能性が有る。さらに、詳細な動向を得るためには、調査項目の検討を行い、大規模な調査を実施する必要が有る。
結論
在宅療養支援診療所における患者動態として、在宅医療を受けるがん患者の62%はがん拠点病院を受診していること、がん患者の約半数はがん拠点病院での入院や通院直後から直接、在宅医療を開始していることが分かった。
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