研究目的
がん臨床研究の円滑な運用には患者動態に関するデータが必要となるが、患者動態はその地域特性によって異なると考えられる。そこで我々は、医療過疎地域における患者動態および医療の地域格差の実態、現状の医療体制の問題点を明らかにするため、慢性透析導入患者について千葉県における患者動態と医療提供体制を調査した。透析導入は一度限りの処置であり、がんの外科治療に近い患者動態をとると考えられる。
千葉県は人口10万人あたりの医師数が146.0人と全国平均201.0人に対して少なく、全国ワースト3位である(厚生労働省、平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査)。県内でも大規模病院の大部分が千葉市以西に集中する一方、千葉市以東では旭中央病院と亀田総合病院の2か所のみで、両者の医療提供体制には大きな格差が存在する(平井愛山ら, 2006年)ことから、調査地域として選択した。
研究方法
(1)医療需要の調査
1)慢性透析導入患者数の推定
慢性透析導入患者数に関しては、日本透析医学会がほぼ全数調査に近い形で全国の透析導入施設に調査を行い、性別5歳階級別慢性透析導入数を発表している(日本透析医学会編、「図説 わが国の慢性透析療法の現況」、2005年)。これと総務省統計局発表の年齢男女別一般人口(平成17年国勢調査)をもとに、わが国における性別5歳階級別慢性透析導入率(一般人口10万人あたり透析導入数)を算出した。この導入率と千葉県年齢別町丁字別人口(千葉県総合企画部統計課、平成18年)から、市町村別推定慢性透析導入患者数を算出した。さらに2次医療圏別に集計し、単位人口(10万人)あたり推定透析導入数および単位面積(100km2)あたり推定透析導入数を算出した。
2)患者動態調査
2004年から2006年までの3年間に亀田総合病院において慢性透析導入を行った患者の居住地を調査した。さらに各市町村について、推定慢性透析導入患者数に対して、亀田総合病院での慢性透析導入患者が占める割合および診療圏を調べた。
(2)医療提供体制の調査
1)医師密度調査
千葉県健康福祉部健康福祉指導課が発表した値(平成16年千葉県衛生統計年報)をもとに、現在の市町村別に医師数を再集計し、2次医療圏別単位人口(10万人)あたり医師数、単位面積(100km2)あたり医師数を算出した。
2)透析導入提供体制の調査
千葉県内で血液透析導入を行っている施設の分布を調査した。
日本透析医学会が公表している専門医名簿をもとに、病院のウェブサイトなどで勤務先を調査し2次医療圏別に専門医数を集計した。また、透析導入施設に勤務する専門医1人あたりの推定慢性透析導入患者数を算出した。学会ウェブサイトで勤務先が公表されている日本腎臓学会専門医についても同様に調べた。
3)解析及び倫理面への配慮
患者動態調査に関しては、匿名非連結化された調査票を用いて、郵便番号情報のみを収集した。収集された郵便番号情報を住所情報に置換し、市町村別及び2次医療圏別に集計した。なお、本研究計画は平成18年11月、東京大学医科学研究所倫理審査委員会にて承認された。
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