総括研究報告|がん臨床研究に不可欠な症例登録を推進するための患者動態に関する研究
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総括研究報告 がん臨床研究に不可欠な症例登録を推進するための
       患者動態に関する研究



研究の方法・結果

(1)造血器悪性疾患に関する患者動態調査


研究方法

我々の調査した範囲ではがん患者動態に関するまとまった先行研究はない。まず、研究方法について検討を重ね(分担研究者 山口拓洋、松村有子)、年齢階級別罹患率から調査地域の罹患者数を推定し、実際の患者調査と比較することにより患者動態を明らかにすることとした。徳島県(主任研究者 上 昌広)、京阪奈地域(分担研究者 林 邦雄)、東京多摩地域(分担研究者 小林一彦、濱木珠恵)において、造血器悪性疾患患者に関する患者動態調査を行った。調査対象は、調査期間に新規に罹患したa)白血病、b)悪性リンパ腫、c)多発性骨髄腫患者とした。これらの3疾患は年齢階級別罹患率が判明しているため(日本対がん協会編、「がんの統計」、2005)、各調査地域の年齢階級別人口から当該地域の推定罹患者数が算出される。この推定罹患数と調査により得られた当該医療機関の罹患数を比較することにより、調査地域における患者動態が明らかとなる。また、上記疾患の治療には高い専門性が要求され、質の高い医療提供システムの考案に適切である。 データ収集は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門(以下、事務局)が担当した。分担研究者及び研究協力者は、対象患者を確認し、患者毎に調査票に必要事項を記入し、事務局に提出した。
(倫理面への配慮)
本研究においては、人体から採取された試料は用いない。がん患者の紹介動態、治療内容、患者満足度の調査においては、患者の個人情報に接するため、個人情報保護の徹底が重要である。研究員による情報の抽出を行う際には、研究員に対して、教育・作業管理の徹底による個人情報保護、情報の漏洩防止対策を徹底した。その後、集計の際に患者情報を施設外に持ち出す必要があるが、その際には匿名非連結化により個人情報を除いた情報のみを扱った。 なお、本研究は平成18年11月に「がん臨床研究に不可欠な症例登録を推進するための患者動態に関する研究」として東京大学医科学研究所倫理審査委員会の承認を得た。

研究結果

平成19年2月現在、事務局にて集計し解析が終了している症例数は7病院の777例である。詳細な調査結果は各分担研究者の報告を参照されたい。 いずれも医療機関の動態調査においても、病院所在地から半径25km以内或いは隣接市町村に居住する患者割合は75%を上回っている。また、造血器悪性疾患の年齢階級別罹患率は高齢であるほど上昇するため、過疎地での顕著な人口高齢化を反映して、遠隔地での罹患数は増大している。

(2)高齢者急性白血病患者動態調査


研究方法

2006年1月から2006年12月の東京都老人医療センター血液科(東京都板橋区)に入院した急性骨髄性白血病症例の居住場所、紹介病院および通院手段を調査した(分担研究者 宮越重三郎)。

研究結果

高齢者急性骨髄性白血病の東京都老人医療センター血液科への紹介は、37例中30例であった。いわゆる城北地区からの紹介が19例ともっとも多かった。通院に使用する交通手段は、自家用車ないしタクシーが多かった。

(3)同種造血細胞移植の実施状況


研究方法

同種造血細胞移植の実施状況 急性白血病に対する同種移植の地域および都道府県別実施状況を調査した(分担研究者 小松恒彦)。

研究結果

各調査地域間には最大2.1倍、各都道府県間に最大19.4倍の同種移植実施率の格差が存在した。地域別、都道府県別の同種移植実施率は、単位人口当たり血液専門医数に相関したが、一人当たり県民所得との間に相関を認めなかった。

(4)透析患者における患者動態


研究方法

2004年から2006年までの3年間に亀田総合病院(千葉県鴨川市)において慢性血液透析導入を行った患者の居住地を調査した。さらに各市町村について、推定慢性透析導入患者数に対して、亀田総合病院での慢性血液透析導入患者が占める割合および診療圏を調べた(分担研究者 小原まみ子)。

研究結果

千葉県全体の年間推定慢性透析導入患者数は10万人あたり25.3人と全国平均(27.0人)よりも少なかった。2次医療圏別に比較すると、東京都に近い医療圏では県平均より少ないのに対し、県東部から南部にかけての医療圏では30人/人口10万人を超え、地域格差が見られた。亀田総合病院で透析導入を行った患者は県南部に広く分布しており、診療圏は2次医療圏をまたぐ形となった。医師、透析導入施設は千葉市以西に集中していた。

(5)在宅医療支援診療所における患者動態


研究方法

在宅医療支援診療所(あおぞら診療所上本郷: 千葉県松戸市)を2006年1月1日から12月31日までの期間に受診した新患患者について、居住地、患者が在宅医療を受ける直前にかかっていた医療機関の所在地、患者が当診療所へアクセスするための仲介者を調査した(分担研究者 川越正平)。

研究結果

在宅医療支援診療所の診療圏は、一般の診療所にくらべ広かった(半径2.6km)。また、対象者は高齢者が多く(中央値82歳)、疾患はがん患者、筋神経疾患患者が多かった。

(6)医療施設間情報伝達手段の実態調査

研究方法

複数の医療機関や保健所等に、広報誌や施設情報の印刷物の提供を依頼し、情報提供内容について検討を加えた(分担研究者 中村利仁)。

これとは別にがん診療に不可欠な情報の一つである病理診断関連情報の動態を明らかにすべく、病理診断コンサルテーションの流れを調査した。2006年1月から同年12月に財団法人 癌研究会 癌研究所病理部(東京都江東区)に依頼された病理診断コンサルテーションに関し、その依頼元及び依頼回数を調べた(分担研究者 竹内賢吾)。

研究結果

5つの訪問先から6つの医療機関等の7部の資料の提供を受けた。対象として患者あるいは住民が主として想定されているものが2部あった。院内職員を主たる対象としていると考えられたものが2部あった。他の3部は対象が必ずしも明らかでなかった。

病理診断関連情報に関する調査では、コンサルテーション総件数は36件、依頼元施設数は21施設であった。地域別では東京(13施設)が顕著に多く、その他、長野、沖縄、千葉、茨城、愛知、広島にわたっていた。依頼者との関連については全23人中17人が既知であった。

(7)受療行動に関する調査


研究方法

患者動態に関する患者側の行動要因を明らかにするために患者の受療行動に関する調査を遂行した。(主任研究者 上 昌広)
 【1】転院に関する患者調査 
主に造血器疾患患者を対象に、インターネットホームページ上で2006年7月から8月の間、転院に関するアンケート調査を行った。
 【2】臨床試験に関する調査
首都圏基幹病院89病院において10万部が配布している(2006年秋)院内フリーペーパー「ロハス・メディカル」の9月号(8/20発行)及び10月号(9/20発行)において、読者向けの折込はがきアンケート調査を行った。

研究結果

【1】転院に関する患者調査
調査対象者の総数は219名(男性80名、女性138名、無回答1名)、年齢平均43.1歳であった。このうち、43.4%が転院を経験し、転院理由としては骨髄移植を目的としたものが最も多かった。知人からの情報やセカンドオピニオンにより転院先を決定していることが明らかとなった。

図1 転院に関する患者調査

転院に関する患者調査 →拡大表示

【2】臨床試験に関する調査
回答数は、9月分が1212件、10月分が854件であった。興味のある臨床試験として、悪性腫瘍や生活習慣病、うつ病が多く選択された。また、情報源に関しては、担当医や病院で約半数を占めたが、病院の雑誌やインターネットという新しい情報伝達手段を利用する人は23%であった。

図2-A 臨床試験に関する調査 どのような治験に興味がありますか

 →拡大表示

図2-B 臨床試験に関する調査 治験の情報源

 

  
このサイトに関するお問合わせ先:東京大学医科学研究所 先端医療社会コミュニケーションシステム 社会連携研究部門
(旧:探索医療ヒューマンネットワークシステム部門) 上 昌広 
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