医療に関する解明機関設立をめざす社会の動き


【自民党】
 2007年3月9日に医療紛争処理のあり方検討会議が行われ、診療関連死の死因究明を行う組織についての協議が行われました。厚生労働省が議論のたたき台としてまとめた「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」の概要について説明を受け、質疑応答を行いました。(西島英利;活動報告

 自民党の舛添要一参院政策審議会長は7日に「法案化する方向を今国会中、参院選前までに示したい」と話しています。(2007年3月23日じほう「ADR法が4月1日施行 「院内ADR」への期待高まる 学術会議や与野党内に法制化の動きも」


【民主党】
  『わが国の解剖率は世界的に見ても著しく低く、死因究明のシステムは脆弱で、その結果、犯罪の認知に至らなく、効果的な再発法施策が講じられない』として、2005年3月に座長を細川律夫、事務局長を法務委員樽井良和として死因究明ワーキングチームを法務部門内に発足させました(週刊医療情報インデックス 2006年9月第3週(2006.09.12〜2006.09.18)。

 2007年2月28日には法務、厚生労働、内閣の合同部門会議を開き、死因究明制度改革についての考え方をまとめました。殺人による変死体から医療関連死、そして災害による身元確認業務まで幅広い死因の究明を対象としています。医療関連死では、国の機関として航空・鉄道事故調査委員会をモデルとした「医療安全委員会」を設置して調査を行います(週刊医療情報インデックス 2007年3月第1週(2007.02.27〜2007.03.05)。

 4月13日の日本外科学会定期学術集会において、参議院議員の足立信也氏(民主)は、診療関連死論争の解決を図るため21条を含む医師法改正案の検討を進めていると報告しました。「医療関係の死亡を異状死に含めるべきではない。究明機関に届け出た症例は、警察に届け出る必要がないとしていく。そのためには医師法21条の改正が必要だ」と、警察ではなく原因究明機関に届け出る枠組みの創設を訴えました。
 具体的な原因究明機関に必要な要件としては、(1)医師個人に対する刑事罰によって同様な事件の再発予防が期待できるケースを除き、刑事事件として立件しない、(2)診療関連死は検視局に届けられても原因究明機関が調査を行う。その結果、明らかな殺人・犯罪が疑われる場合は検視局に回す、(3)カルテの提出や解剖実施など、強制的な調査を行う権限をもつ、(4)民事上の過失認定は原因究明機関では行わない。紛争処理は、裁判外紛争処理機関(ADR)で行う、㈭情報は当事者に開示し再発防止提言を公開することを挙げました。
 さらに、医師法21条改正に向けた異状死全般にわたって必要な法律案について同議員は、死因究明の必要性を盛り込んだ「変死体の死因究明の適切な実施に関する法案」をはじめ、死因究明の専門機関として「独立行政法人法医科学機構法案」、医療事故・診療関連死の届出先として「医療安全委員会の設置に関する法律案」、「医療事故紛争の解決の促進に関する法律案」の整備が必要としました。
 中でも医療安全委員会の設置に関する法律案では、診療関連死か患者に心身の障害が残った事案で、事案の発生が予期されなかったものなどは24時間以内に委員会に届け出なければならないと規定しています。(2007年4月16日メディファクス5145号)

5月14日 すずかん 国会質問「医療紛争処理」
5月21日国会質問風景より  鈴木寛(すずき・かん)現場からの医療改革推進協議会事務総長が、5月14日、医師法21条・医療事案解明・裁判外紛争処理を中心に国会質問しました。重要なポイントをしっかり述べたうえで、厚生労働大臣にも釘を刺しました。(ロハスメディカルブログ傍聴記録
 「医師法21条は法律ができたときの趣旨と現在の運用とが乖離している。いわゆる医療関連死亡は異状死に含めるべきでないと考えるが、このようなことを検討会 new window で議論してもらえるのか。」
 「専門的な調査機関を作ることは結構だが、それは一体誰のためのものなのか。ぜひ患者のためという本旨に基づいて制度設計を行ってほしい。誰のためという部分を間違えると、医師法21条の警察への届け出義務も残って、仮に第三者機関への届出義務なんかかけてしまうと、そんなことは考えていないと思うが、警察からも第三者機関からも立ち入り検査を受けることになり、手続き上の落ち度があった場合に両方から訴追リスクがあっては、何のためにこういう議論をしていただいているのか全く分からない。検討会で行政処分のありかたについても検討するとなっているが、民事訴訟、刑事訴追がある中で、さらに行政処分が強化されたら、結局、萎縮医療・保身医療がひどくなってしまう。結果として一番困るのは患者さんだ。」要するに、「医師法21条を現状のまま、行政処分を強化するのではあるまいな。」という念押しです。
 「医療従事者と患者・家族との間に濃厚な信頼関係が必要。その意味で対話型ADRについては検討会で議論されるのか。」厚労大臣にもきちんと取り組むよう念を押した、見事な論理展開の質疑でした。
 国会質問の様子を参議院ビデオライブラリから見ることができます。下記サイトから「5月14日」「行政監視委員会」の「参照」をクリックし、「鈴木寛(民主)」を選択して下さい。 → 参議院TV



【厚生労働省】
 
2007年3月8日に厚生労働省医政局総務課医療安全推進室が『診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性』を発表しました。2007年4月20日までパブリックコメントを募集しています
 調査組織は国か都道府県に設置する方向で検討されています。また、医療機関に対して死亡事故の届出の義務化とされていますが、今後、届出先を都道府県にするのか直接調査組織にするのか、届出対象となる診療関連死の範囲をどうするのか等が検討課題となっています(asahi.com)。

 医療事故にかかわる死因究明制度を創設するため、「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する検討会(仮称)」を発足させ、4月20日に初会合を開きます。検討会では、医療事故など診療関連死の死因究明を行う第三者組織の設置や、その届け出制度などについて議論。医師法21条で規定している「異状死」の届け出制度との関係も整理する方針です。
 検討会では死因究明の調査組織が医師の行政処分も合わせて行うかどうかも検討していくことになります。(2007年4月16日メディファクス5145号)

 4月13日の日本外科学会定期学術集会において、医政局総務課の佐原康之医療安全推進室長は、「厚労省試案に盛り込んだ(医師法21条)を含む法的な整備については、月内に設置する有識者による検討会の結果を踏まえて判断していく」との考えを示し、検討会の結果次第では、法改正に取り組む姿勢を示しました。(2007年4月16日メディファクス5145号)

【日本学術会議】
  日本学術会議の医療事故紛争処理システム分科会は2月23日、初会合を開き、裁判以外の方法で医療事故紛争の解決を図る医療事故紛争ADRや、医療関連死の原因究明機関の設置などについて検討を始めました。今年5月頃に制度のモデル法案を盛り込んだ報告書をまとめます。同分科会の委員長には早稲田大学大学院法務研究科の和田仁孝教授を選出、その他の委員は、広渡清吾・東京大学社会科学研究所教授、土屋了介・国立がんセンター中央病院長、福島雅典・京都大学医学部付属病院教授、森川康英・慶應大学医学部教授、守谷明・関西学院大学教授です。
 初会合で提示された論点整理(案)によると、分科会では、医療事故紛争ADR、事故・紛争発生時の初期対応人材の配置について、医療関連事案原因究明機関の設置について、の3点を検討します。初期対応する人材については、医療機関に被害者らのケアと対話促進の技術を持つ「医療メディエーター」の配置を促進することを検討し、配置する場合はどの程度の規模以上の医療機関にするかなどを議論します。(2007年2月26日メディファクス5111号)



【日本医師会】
 平成18年7月24日、医療事故責任問題検討委員会の初会合が行われました。これは、福島県立大野病院の事件を契機に,いわゆる異状死問題がクローズアップされてきているという背景のもと,法曹関係者と共に,医療事故に対する民事責任,刑事責任,行政処分等の責任問題を検討し,この問題に関し,医師と法曹界とが共通の見解をまとめることを目的として設立されました。(日医ニュース)。

 木下常任理事は大久保代議員の質問に対する答弁の中で次のように述べました。
 昨年2月に福島県立大野病院事件が起こり、各県医師会から、日本医師会の見解を正しく出すようにという話があった。そこで「医療事故責任問題検討会」を立ち上げた。
 「予期せぬ死亡とは何か」という定義をするのは不可能で、予期せぬ死亡例だからといって届け出るわけではなく、担当医師が死亡診断書を書けない場合において届けるべきであると考える。
 届出の義務化についてだが、医師法21条には確かに異状死を所轄警察署に届け出る義務が明記されている。新たにこの法律に変わるものを目指す以上は、診療関連死に関して死因究明の仕組みを新たに設ける必要がある。
 免責制度だが、わが国では医師に過失があり、損害賠償責任があるとされる事件について、民事責任を免責する法律を新たに作ることは不可能である。また、医療行為による死亡だけを特別扱いすることは、刑法上も認められない。調査組織の評価・検討結果により、重大な過失があると判断された場合には、刑事責任を問われる可能性は高いと言わざるを得ない。
 歴史的な経緯を見てみると、検察当局は業務上過失傷害の処理の際に必要最小限にとどめていくというふうに刑事訴追の範囲を決めている。われわれはこの伝統が堅持されていくことを強く要望していく。
 紛争案件への結果の利用については、医療事故の第1次的な原因究明を専門家集団である第三者機関が行うことを国が法律を定めて決めるからには、届け出案件の調査・検討結果について患者・家族、担当医師、さらに警察への報告は避けられない。しかし過失が認定されてもすべてを刑事事件に処するわけではない。従って刑事事件にするか業務上過失にするかは、検察の判断として刑事を考えた上で軽い場合には刑事責任を問わない方向性でわれわれも常に要望していく。医療事故責任問題検討委員会でまとめた提言を具体的にするため、厚労省の委員会に入ることになる。そこでわれわれの意向を実現していきたい。(2007年4月2日メディファクス5135号-3)



【日本外科学会】
 日本外科学会定期学術集会は4月13日、診療関連死の調査分析モデル事業に関する特別企画を行い、日本外科学会の高本眞一モデル事業代表(東大教授)は、学会として医師法 21条の異状死をめぐる届け出先が警察では「不適当」とし、法改正を求めていきたいとの見解を表明しました。(2007年4月16日メディファクス5145号)

 4月13日、3日間の定期学術集会での議論を踏まえ、外科医、外科医療、日本の医療の崩壊に対する会員らの危機意識の高まりを受け、「社会とともに外科医療のあるべき姿を考え、その構築に向け取り組んでいく」との緊急提言を発表しました。
 この中で、診療行為に関連して発生した有害事象を根拠に医療者が刑事訴追される事態の発生により、「防衛医療・萎縮医療」がはびこる恐れがあるとし、その改善に向けた提言を行いました。診療行為に関連して発生した有害事象の原因究明などは、専門性の高い中立的な組織においてなされるべきであり、刑事司法が介入すべきでないとしました。( 2007年4月16日メディファクス5145号)

【日本産婦人科学会】
 4月14日、総会後の会見で、産婦人科医療提供体制検討委員会が2005年秋から検討してきた産婦人科医療のあるべき将来像について最終報告書をまとめ、12日に理事長に提出していたことを明らかにした。
 10〜20年後の産婦人科医療の将来像として描かれたのは、㈰産科医療圏での階層的ネットワークの形成、㈪産婦人科医の勤務条件・待遇の改善の2点。
 このほか、国による医療紛争解決システム(医療紛争ADR機関、医療事故原因究明機関、医療事故無過失救済制度)の早期構築、産婦人科医の主体的な産科医療圏の形成、地域産婦人科センターの育成、勤務条件・待遇の改善、女性医師の占める割合が増えたことによる問題の解決などを実施していくことを提言した。(2007年4月17日メディファクス5146号)

【現場からの医療改革推進協議会】
 2006年11月25.26日に東京大学医科学研究所大講堂において、「現場からの医療改革推進協議会 第1回シンポジウム」が開かれました。その中で医療事故後制度改革について下記のメンバーで話し合われました。


足立信也(参議院議員)

岩瀬博太郎(千葉大学医学部法医学教授)

海野信也(北里大学産婦人科教授)

鈴木 寛(中央大学公共研究科客員教授、参議院議員)

鈴木 真(亀田総合病院産婦人科部長)

仙谷由人(衆議院議員)

舛添要一(参議院議員)

和田仁孝(早稲田大学大学院法務研究科教授)

上 昌広(東京大学医科学研究所客員助教授)



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